現代日本のベッドタウン、ごく一般的な町『南守村市』(みなみかみむらし)の中にある『守村学園』(かみむらがくえん)。
「みなみ(下)」なのか「かみ(上)」なのか、「村」なのか「市」なのか、どうにもはっきりしないこの市の名前を冠する当学園では、創立当時から学生達の間でまことしやかに囁かれている、一つの奇妙な伝説があった。

 

”校庭の片隅に佇む、一本の古木。
老齢のポプラのその根元で、卒業式の日に、女の子からの告白で生まれたカップルは、かなりの高確率で「デキ婚」する。

しかし、責任を取る形で、親族の反対を押し切って婚姻関係となったところで、まだまだ遊びたい盛りの年齢。
学生時代にあんなに愛を囁き合った二人にも、理不尽な仕事、家計のやりくり、子育てに追われ、苛立ちをぶつけ合うような喧嘩を繰り返しては、その傷を埋めるようにシーツを汚す日々がやって来る。
ある日、荒んだ心を潤す何かを探し、ふらふらと灯りに惹かれる羽虫のように訪れた繁華街。
まるで今の二人の距離を示しているかのように、別々の場所を彷徨う二人が揃って目にとめたのは「砂漠で水を売るような法外な値段のぬるいビールと申し訳程度のスナック菓子で辛うじて店舗としての体裁を保ちつつも、主たる売上はテーブルチャージやサービス料」という、繁華街にはままある飲食店だった。
そこは虚構の世界でありながら、ひび割れた心の隙間を埋めるための砂で作られた楼閣。
今の二人には、花の蜜より魅力的に見えて然るべき場所だった。

 

「本気で恋した訳じゃない。ただ寂しさを埋めて欲しかっただけ」

 

かくして二人はお互いの浮気を詰り、罵り合い、最終的に血で血を洗う愛憎劇となる”というものだが、これは残念ながら今回の物語にはあまり関係が無い。